「SHOCK WAVE」商標事件 (2)

 こんにちわ。中の人です。

 前の記事で、星子さんが出願登録した商標「SHOCK WAVE」が特許庁の審決により取り消されたところまで追ってきましたが、今回は第2ラウンドとして東京高裁で争われた審決取消訴訟の内容を見てみたいと思います。


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 一応参考までに制度の説明をしておきますと、特許庁での手続き(特許出願とか商標出願とか)に対して不満がある場合、特許庁に対して請求行為(異議申立とか無効審判とか)を行い、特許庁はそれに対して審決を出します。
 その審決に対しても不服がある場合、今度は裁判所(この事件当時は東京高裁、今だと知財高裁)に「審決取消訴訟」という訴訟を起こします。
 もしその結果に対しても不服であれば、最高裁に上告してさらに争うことも(現実的かどうかは別にして)可能です。


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 さてそれでは、高裁で争われた内容を見ていきます。前の特許庁でのバトルよりもさらに深い主張がやりとりされており、非常に興味深いところです。

 ちなみに、判決文では原告は「A」と伏せられていますが、元となった審決文にはちゃんと「星子誠一」と名前が出ていますし、内容的にもバレバレですのでこの記事では特に伏せることはしません。
 まず最初は、星子さんの主張(特許庁による無効の審決が間違っている、という主張)についてみてみます。

権利の帰属について (1) 「SHOCK WAVE」を主催運営していたのはクラブチッタであり、音楽専科社は企画をしていただけであるので、需要者は「SHOCK WAVE」がクラブチッタの業務だと認識することはあっても音楽専科社の業務だと認識することはない
(2) 契約書では「スターチャイルドは音楽専科社の無形財産の権利を侵害しない」としているが、「無形財産の権利」には排他性のない(誰も独占していない)ものは含まれない、と解釈すべき。
 したがって、そもそも音楽専科社は「SHOCK WAVE」の権利を持っていない。
(3) また、イベント企画者と参加者の取引は個別に行われ、需要者は企画者がどういう者か知ったうえで企画を依頼するから、音楽専科社以外の者が「SHOCK WAVE」の名称で企画を行っても混同することはない。
公序良俗違反について (1) 星子さんは、音楽専科社が主催してイベントを行うべきと主張したが、受け入れてもらえなかったので、自分の責任でやることにした。
(2) 音楽専科社は自分がイベントの主催者にはならないという方針であり、商標登録する意思もなかった。
 したがって、他社に商標登録されないよう、自ら登録しただけであって、公序良俗に反していない。

 すごいことを言い出したな、という印象です。「音楽専科社がSHOCK WAVEの権利を持っていない」とは、いくらなんでもトンデモすぎる主張じゃないでしょうか。それに「SHOCK WAVE」がクラブチッタの業務だと思われることはあっても音楽専科社のものだと思われることはない、というのもすごい話です。
 少なくともV系ファンで、SHOCK WAVEはクラブチッタがやってるイベントだと思っていた人がいるとは到底思えません。たぶんバンギャ100人に聞いたら100人がSHOXXのイベントだと答えると思います。

 (3)はちょっと何言ってるのかわかりません。混同しなければいい、という問題ではないような気がするのですが・・・。
 そもそも「需要者」って誰のことだかよくわかりません。出演バンドでしょうか?

 公序良俗違反については、あくまでズルをして登録したんじゃない、正当な行為だ、という主張ですね。ここんところは前のときも主張が食い違っていたところで、もう一度繰り返して主張しているという感じです。

 で、これに対する特許庁(というか音楽専科社)の反論がこちらです。

権利の帰属について (1) 音楽専科社は「SHOCK WAVE」の企画者として主体的に関与している。イベントの実行はクラブチッタに依頼していたが、音楽専科社はイベントをSHOXX誌上で告知したり、バンドとの出演交渉を主体的に行ったりしている。また「SHOCK WAVE」は観客も多く、CDも制作したりしているという状況においては、バンドもファンも音楽専科社が主体的に興行していたと認識していたと考えるのが自然。スターチャイルドとの契約によって「SHOCK WAVE」の事業を承継させたわけでもない。
(2) 契約書の条項は、権利の許諾先(星子さん)が悪意を持って権利を取得するような事態を防止する目的であり、そのように限定的に解釈するべきではない。
 したがって、「SHOCK WAVE」の権利は音楽専科社が有しており、それが契約書にいう「無体財産の権利」に含まれることは明らか。
(3) 需要者の中にファンが含まれないことを前提とした主張のようだが、その前提が間違っている。「SHOCK WAVE」が音楽専科社の業務として有名であることと、取引が個別に行われることとは何の関係もない。
公序良俗違反について (1) 星子さんに対し、「SHOCK WAVE」を商標登録してよいと認めたことはない。
(2) 商標登録を知った後、異議申立と並行して星子さんに商標の移転を要求したが、これに応じなかった。しかも「SHOCK WAVE」の名前でイベントを行うことを禁止してきたため、イベントの名称を変えざるを得なくなった
 以上より、星子さんの意図は自己の業務を有利に展開、または音楽専科社の業務を妨害することにあるのは明らか。
(3) また、「他社の登録を防ぐためだった」というが、音楽専科社に商標出願するように言えば済む話であるし、移転登録の要求に応じなかったことを考えれば、その意図があったのか怪しい。

 権利帰属については、そりゃそうだよね、という感想です。SHOCK WAVEはSHOXXがやっていたイベントだとみんな思ってますよねー。
 (3)については、星子さんの主張とかみ合っているのかよくわからない(星子さんが何を言っているのか理解できてないので)んですが、「関係ないでしょ」というぶった切り方については同感です。

 公序良俗に関しては、ますます食い違いが明らかになってきていますね。移転登録に応じないばかりか、名前を使うなと要求するあたり、ちょっと信じられません。それが事実だとしたら、「他社の登録を防ぐためだった」という言い訳は到底信用できませんね。
 しかも、イベントの名前を変えざるを得なくさせるというのは明らかに敵対的な行動です。このあたり、僕も実態がどうだったか覚えていませんが、ググってみると「SHOCK JAM」っていう名前にしたんでしょうかね?今は「SHOCK WAVE」に戻っているみたいなので、どういう名前の変遷があったのか、今となってはちょっとよくわかりません。
 しかしこれは音楽専科社としてはブチ切れてもおかしくない行動ですよねー。

 そして裁判所の判断は・・・

権利の帰属について (1) 諸々の事実を考慮すると、「SHOCK WAVE」というイベントは、音楽専科社、特にSHOXXと密接に関わるものとして有名であったと優に認めることができる。
(2) 音楽専科社とスターチャイルドとの契約からみて、「無形財産」の「権利」にあたるというためには、基本的にSHOXXに関するものである必要があるが、宣伝の内容やSHOXX上での告知、またSHOXXの売り上げとイベントの成功には相乗効果があるといえることから、「無形財産」の「権利」にあたるといえる。
(3) 普通に考えて、ファンはSHOCK WAVEが音楽専科社と結び付けて理解するので、音楽専科社の立場がどうだったかとは関係ない。
(4) 星子さんは自分の責任でイベントを実施することにしたというが、当時は星子さんは音楽専科社の従業員だったわけで、自分の事業とは言えない。
(5) 諸々の事実をみても、音楽専科社が「SHOCK WAVE」から撤退したとも言えない。
 以上より、「SHOCK WAVE」の権利は音楽専科社が持っているといえる。
公序良俗違反について (1) 商標登録することについて承諾を得たと認められる証拠がない。
(2) 出願時点では星子さんは音楽専科社の従業員だったので、音楽専科社の権利を侵害しないようにすることは当然であるし、退職後もそれを尊重しなければならない。スターチャイルドと音楽専科社との契約でも、権利を侵害しないことを約束している。
 よって、「SHOCK WAVE」商標の権利を尊重すべき星子さんが、会社に無断でした商標登録は公序良俗違反である。
(3) イベント実現における星子さんの貢献が大きいとしても、それは従業員として当然のことである。
(4) 「他社の登録を防ぐためだった」というが、すでに音楽専科社のイベントとして有名になっていたので、誰でも登録できるとは限らない。また、会社に対し登録するよう説得した形跡もないので、その主張は認めない。

 うん、まあそりゃそうだ、というごく自然な結論だと思います。

 やっぱり在職中に出願していて、それを会社に黙っていたというのはどう考えても不利な状況ですよね。すでにこの時点で独立を見据えて行動していたということでしょうか?しかし、うまく商標を獲得できたとしても、それはそれで次は音楽専科社との直接対決が待っているだけで、あまり良い戦略ではなかったように思います。
 もちろん、V系業界における「星子誠一」のネームバリューが相当強力だという事情はあるので、政治的に解決する作戦が立っていたのかもしれません。まあ外野からは実情はわからないので、その辺は推測するしかないです。

 判例検索で出てきたのはここまでで、最高裁判例はありませんでしたので(まあ当たり前か)、裁判はここで終わり、商標は取り消されたようです。今は「SHOCK WAVE」の商標は誰も持っていないようです。

 今では音楽専科社のイベントは「SHOCK WAVE」の名前で開催されているようですので、おそらく無効確定後に名前を戻したのかなと思われますが、SHOCK WAVEの開催実績一覧などはとくにないようですのでちょっとわかりません。
 一方で、星子さん側は「Stylish Wave」と「Shock Edge」の名前でイベント開催してますね。まあどちらも片方の単語が違うので商標法的には類似とは言えないと思いますが、ファンからすれば似たような名前だなあと思いますよね。実際当時は僕も、Shock Waveと関係する(あるいは派生した)イベントだと思い込んでましたし。

 ちなみに現時点では「Stylish Wave」も「Shock Edge」も、スターチャイルドも星子さんも商標持ってないみたいです。だからどうということはありませんが。


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 ところで、前回の記事でもちょっと触れた「解雇」について、今回の判例中により詳しい記述がありました。「被告及び補助参加人の主張の要点」として、「2 原告の主張2(公序良俗違反とした認定の誤り)に対して」の中にこう書かれています。『補助参加人は,平成13年5月20日付けで,原告を解雇し,本件契約も,同月末日付けで解約した。』

 ・・・。あ、やっぱり。

 解雇と契約の解約が同時ということは、やはりこの時点で協力関係は崩壊していたわけですね。2001年5月時点では商標問題はまだ表に出てきていないので、解雇された理由は他にあるということでしょう。それが何かはわかりませんが。
 5月に事実上音楽専科社とスターチャイルド(星子さん)の関係が切れていて、9月に商標登録されたわけですから、登録の事実を知った時に音楽専科社側がどれだけ頭に来たか、想像に難くありません。
 しかも、「商標を渡せ」と言ったら断られたばかりか、イベント名の使用を禁止してきた、となれば、これはどんな温厚な人でも切れますよね。

 イベント名の変更を余儀なくされたということも言っており、もしかしたらこれと並行して損害賠償請求が音楽専科社側からなされた可能性もあります。それらしき判例は見当たらなかったので、そこまではしなかったのか、裁判にはならず話し合いで解決できたのか、あるいは裁判になったけれど判例DBには残ってないのか、どうなったのかはわかりません。

 ということで、SHOXXといえば星子さんというイメージがありますが、実はもう長いこと関係は冷え切っていたんですね。と言ってもV系業界はそんなに広いわけでもないので、音楽専科社派と星子さん派に業界が割れた、というわけではないようです。Stylish Waveに出たバンドが以後SHOXXに一切載らなくなった、ということもないようですし(たぶん)。

 まあ、今回の音楽専科社倒産でSHOXXの立場は変わったので、業界(の裏側)的には何か動きがあるのかもしれませんね。


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 最後に、判例中にスターチャイルドと音楽専科社の契約の一部がまるまる載っていたので、転記しておきます。商標登録の許可があったといえるかどうか、実物を見ていただくのが一番いいと思います。

 僕の個人的な感想では、これで登録許可があったとは読めないと思いますし、この裏で「SHOCK WAVE」の商標を(音楽専科社に黙って)出願していた、となると、契約の前提となる相互の信頼関係があるとは言えず、前文にある「協力関係の維持促進」など到底できる状況ではなかったと思います。

 株式会社音楽専科社(以下「甲」という。)と株式会社スターチャイルド(以下「乙」という。)とは,甲乙間の業務提携の内容を明確にし,協力関係の維持促進をはかるため,基本的事項に関し,業務提携基本契約書(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(基本原則)
 乙は甲が出版販売するビジュアル系音楽雑誌,月刊「SHOXX」並びに同誌に関連する臨時増刊誌(雑誌,書籍,通信販売)の全ての有形財産,無形財産の全権利(以下「権利」という。)を侵害しないことを約束する。

第2条(相互協力)
 甲および乙は相互に協力して,関係法令を遵守しつつ共同の利益の増進を図るため協力して努力するものとする。

第3条(個別契約)
① 甲が所有する権利を乙が使用するにあたっては事前に文書により,甲の許諾を得るものとする。
② 甲は乙より①項の権利の使用申し入れを受諾する場合には使用する権利の内容,事業内容,期間等々を明示した個別契約を締結する。

(以下略)